日本一の蒲鉾を育んだ
いくつもの縁のチカラ
天草には日本一の称号に輝いた蒲鉾がある。松下蒲鉾3代目・松下晶一さんは言う。「多くの出会いが”天領”を育んでくれたんです」
天領の原料は白身魚のエソ。高知大学の研究生時代にエソの蒲鉾に魅せられたのがきっかけである。「漁協を巡り天草町で最高の原料に出会った。エソは鮮度が命。そのため底引き漁の帰港を待ち、船から直接良質のエソを仕入れています」 蒲鉾に欠かせない塩は、塩づくりのため徳島から天草に移住した松本明生さんの天然塩を使用。「偶然にもエソを仕入れる漁協の近くで、同じ領域の魚と塩なら相性は良かろうって」 最も苦心したのはうま味。味の深みを出すため、
化学調味料のダシを使っていたが何かが違う。「従業員の娘さんが嫁いだいりこ製造業者から、いりこを頂きました。それでみそ汁を作ったら味がゴロッと変わった」。それがエソの煮干しだった。早速ダシの取り方を研究し、エソダシを加えることでさらなる進化を遂げたのである。 「がぜん味がまとまるようになった。うま味が足りないって悩んでいる時に出会ったから、神様って本当にいるんだって思いましたよ」
蒲鉾で天草を表現する
"らしさ"の追求
天領は様々な改良を重ねていった。蒲鉾品評会では6年連続水産庁長官賞を受賞した。「よし、次は1位の農林水産大臣賞を…」。そんな時、審査員であり交流のあった西岡不二男先生の講演を聴き、一つのヒントを得た。「原料にこだわるだけでなく天草を感じてもらえる蒲鉾…目からウロコが落ちました。そこからもう一度、蒸し方やすり方を見直して、多少の荒削りさを残しつつ、天草の豊かな自然と人々の素朴さを表現できればと願い改良しました」 努力の甲斐あって2000年には念願の農林水産大臣賞を受賞。さらに翌年には水産部門の最高名誉天皇杯を受賞した。「蒲鉾を通して天草の素晴らしさを発信していければ…そういう蒲鉾屋でありたいですね」
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