醤油のルーツ魚醤油を復活父から子へと受け継ぐ
「昔は牛深の家庭でも魚醤油ば作りよったみたかですよ」と木ベラで魚醤油をかき混ぜる西岡勝太郎さん。魚醤油は魚に塩と酵素を加え発酵させて作る調味料。3日前に仕込んだタンクを覗くと、まだ香りはなく色は灰色。発酵が進んでいるのだろう。ポコポコと表面に空気の穴がある。「発酵が均一になるように毎日かき混ぜるとです。熟成の具合や香りも変わるけん確かめながらですね」 出荷前の魚醤油を見せてもらうと、褐色の液状で香りは芳醇。クセがなく塩味の中に魚の旨味とコクが凝縮している。この状態までには1年半から2年もの歳月が必要。長い時間と根気のいる仕事だ。「温度管理はせず、自然の力だけで熟成させてます。ワインと同じで気候や魚質で微妙な味の変化があっとです」 西岡勝次商店は昭和初期から雑節の製造販売を行ってきた。「カツオやサバなどが原料だが頭と内蔵は使わない。養殖魚の餌にしとったけど、『この未使用資源を活用できないか?』と目をつけたとが魚醤油作りのきっかけです」。県産業技術センターなどの協力を得て試行錯誤を重ね、平成12年に商品化。「親父がまた何か始めたばい」と当時は冷やかに思っていたが、家業を継いだ現在、魚醤油作りの奥深さにふれ、その一切を任されている。
余計なものは加えない
自分流の魚醤油を追求
水揚げされたばかりのピチピチの魚が並び、威勢の良い声が飛び交う後浜漁港。魚醤油の原料は全てここで仕入れる。「昔は雑節の不要部分ば使いよったけど、全体を使った方が良か魚醤油になる」と刺し身で食べられる魚を惜し気もなく原料に。仕入れた魚は新鮮な内にミンチ状にして塩を加える。「独特の臭みやクセを抑えるには、魚が腐敗せんよういち早く仕込むとがコツ」 商品開発から7年。失敗を重ね改良を加え、幅広い料理の隠し味に重宝する魚醤油が出来上がった。「魚と塩とあとは自然任せ。人の手はちょっと加わるくらいです」。シンプルだからこそどこにも負けない、胸の内の自信が感じられた。
合資会社西岡勝次商店
〒863-1901
熊本県天草市牛深町1651-1
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